元・家賃保証会社社員が本気で何でも答えたら

家賃保証会社に関してネットには嘘や誤解が多すぎる。だから自分が答える!

【質問】家賃保証会社は念書がないと荷物撤去を行わないのか?

同業の方(家賃保証業界)からご質問をいただきました。

家賃保証会社はどんなときに強制執行を行うのか?
必ず建物明渡訴訟を行うのか?

という内容です。

私の会社の内容はよくよく存じておりますが、書いてしまうと身バレする可能性がありますので、私の知っている一般論と当ブログに寄せられた家賃保証会社の内容を合わせて書きます。

【質問】夜逃げされた部屋の家賃の保証期間はいつまで?強制執行まで保証してもらえる?では、事前に家賃保証会社が入居者から書面を取得していた場合の話を書いていますが、一般的に家賃保証会社はどんなときに建物明渡訴訟を行うのでしょうか。

【質問】夜逃げされた部屋の家賃の保証期間はいつまで?強制執行まで保証してもらえる?でも書きましたが、覚書を事前に取得していた場合には覚書をもとに荷物を出してしまうことがあります。これは事前に入居者の同意を得ているから行えることです。

そして、念書を取得していた場合、若干弱いですが、それでも入居者の同意が得られていると判断できる場合には荷物を出すこともあります。

それは建物明渡訴訟と強制執行に掛かる費用が高すぎるからです。

訴訟まで行くのはレアケースですが、家賃保証会社は普段から家賃が遅れている方を相手にしていますので、もはや訴訟は普通のことです。しかし、それでも訴訟まで行くのは家賃が遅れている方の数%というレベルです。

訴訟になるということは、家賃が数ヶ月遅れているということ、多くは過去の判例をもとに家賃滞納が3ヶ月あれば訴訟するようです。そして、半年で裁判と強制執行が終わることを考えましょう。

すると家賃分だけで9か月分が遅れていることになります。ですが、家賃保証会社の負担は家賃9か月分では済みません。

  • 家賃9か月分
  • 建物明渡訴訟費用
  • 弁護士費用
  • 強制執行申立費用
  • 強制執行費用(荷物搬出費用)
  • 荷物保管費用
  • 荷物処分費用

ざっとこれくらい掛かります。ですが、やはり金額はわかりづらいと思います。

家賃9ヶ月分以外にだいたい100万円かかると思ってください。

部屋の大きさ、荷物量、入居者の状況などでかなり大きく上下しますので100万円というのはまったくアテにならない費用ですが、一般的な住居で10万円ではできませんし、300万円はかかりません。そういう意味での100万円だと思ってください。

もちろん、一般的な住居でも高級物件だと部屋が広い=荷物が多い+取り扱いが面倒な家具が多いなどでさらに高額になったり、事業用として使っている=処分費用に超絶高額費用がかかりまくったりとさまざまです。

100万円は本当に目安です。

だから月額家賃が10万円なら訴訟になったら200万円くらいが家賃保証会社の負担です。こういう案件があるのに1件の保証を月額賃料の50%とかで受けています。10万円の家賃なら5万円の保証料+更新料で受けているわけです。

訴訟が1件あるだけで損益分岐点がおかしくなるレベルで訴訟は高いです。

だから家賃保証会社は訴訟をやりたがりません(当然ですが)。

費用をもうちょっと細かいところまで見ると、建物明渡訴訟費用と強制執行申立費用は対してかかりません。弁護士費用も毎月の顧問料を払っているのが普通ですから一般的な弁護士費用よりは安いです。

金額面で厄介なのは強制執行費用です。荷物搬出する際には執行官の指示のもと、強制執行補助業者という民間の専門会社に依頼しないといけません。

まー、ぶっちゃけ癒着ですよ。執行官にバックがあるかは知りませんが。

執行官がいくつか執行補助業者を紹介、というかここから選べ見たいな感じで言われるので依頼します。すると当日の立会い、搬出する作業員の手配、トラックやダンボールなどの手配など全てをやってくれるのが強制執行補助業者です。保証会社は強制執行の当日いるだけで全てが終わるので大変に便利です。しかし、寡占な上にこちらには拒否権がないので費用は推して知るべし。

そして、入居者が帰ってきて荷物を返して欲しいと言われたときのために保管するように、と執行官に指示されると倉庫を用意して荷物を保管しないといけません。

一定期間が経つと執行官から荷物処分の許可が出ますが、というか、強制執行の当日に何月何日まで保管するようにと指示されますが、処分費用は保証会社持ちです。

処分とはいっても単に捨てるわけにもいきません。ゴミの分別とか処分法方が特殊なものとかがありますし、捨てられないものや換金性の高いものもあります。そういうのを全て保証会社が行います。保証会社ができない場合には荷物の処分を丸ごと外注します。

そういうわけで訴訟が1件出ると保証会社の利益が一気になくなります。ヤバイです。

※ただし、保証会社によって保証範囲や保証する上限金額、保証する時期が異なります。

だからでしょうが、家賃保証会社は支払いが危ないと思ったり、経験上行動が怪しいと思ったりしたら積極的に書面(覚書や念書)を取ることが多いです。

そして、この書面があれば訴訟を行わずに済むことも多いので、取ってりゃよかった覚書。取っててよかった覚書!みたいになるわけです。まるで公文式です。

さて、いつものように前口上が長くなりましたが、本当に家賃保証会社は書面がないと訴訟をしないのでしょうか?

実は家賃保証会社のスタンスによって大きく異なります。家賃保証会社によっては100%すべて訴訟する会社もあればリスク覚悟で訴訟しない保証会社もあります。

100%訴訟する家賃保証会社



100%訴訟するのは保証会社としては一番正しいやり方です。

すべて訴訟をすることで家主のリスクがなくなります。家主としてはリスクをなくして不動産経営ができるわけなのでありがたいのでしょうが、ある意味では悪い入居者を早く出して欲しいのに1年弱待たされるわけなので無理にでも出して欲しいという家主が一定数いるのも事実です。

過去の記事でも少し書いていますが、書面がない場合、フォーシーズはたぶん、すべて訴訟しています。

訴訟しない保証会社



訴訟を一切しないとは飛び道具すぎますが、そういう保証会社もあります。というよりも少なくとも数年前まではありました。今はわかりません。

どんなことがあっても訴訟をしません。それは訴訟する費用が高すぎるためです。

こういう保証会社はかなり無理にでも回収行動に出ます。そして、回収できない場合にはかなり無理な退去交渉をします。交渉に応じない場合には自力救済をします。

つまり、相手が住んでいてもある日突然荷物を出しちゃいます。そして鍵を交換して案件を終了にします。

挙句、勝手に出した荷物を返して欲しかったら貯まった家賃を払えとか言った上に、実際に払ったら支払いが遅かったのでもう処分しました、とか言ってくるヤバイ会社です。

ヤクザとニアリーイコールです。

信じがたいことですが、数年前まで実際にとある保証会社がやっていた手法です。さすがに社名は伏せますので聞かないでください。繰り返しますが、今やっているかはわかりません。

極々一部の家主には支持されていたようです。

手法はかなり間違っていますが、コスト管理とか経営という意味ではある種正しくて、例え訴えられて損害賠償をしたとしても、訴えてこない層(泣き寝入り層)がいることを考えれば訴訟するよりも経営はよくなるのかもしれません。会社としての信用はなくなりますが。

状況次第で訴訟したり、しなかったり



たぶん、一番多いのが状況に応じて訴訟したりしなかったり決める保証会社だと思います。

まー、ぶっちゃけ、全部訴訟なんてやっているというのは経営がよほどうまくいっているか、どこか別のところで利益を出していないと厳しいです。費用がかかりすぎますから。

そこで訴訟しなくてよいものは訴訟しません。

そのために保証会社が検討しているのは主に下記の5点です。

  • 死亡案件
  • 外国人対応
  • 明らかな夜逃げ
  • 弱気な入居者
  • 免責事項


死亡案件



亡くなった案件の場合、正規の手続きでは親族を探します。探す理由は主に2つ。

1.相続していないかを確かめるため
2.荷物を引き取り、搬出をしてもらうため

賃貸借契約は相続対象になりえますので、もしも相続すると言われた場合には責任は相続人にあります。だからこの時点で保証会社は荷物の搬出をしなくて済みます。

相続していなくとも、荷物の搬出を依頼できるケースがあります。長年連絡を取っていない親族でも、亡くなったとなれば話は別、と考えてくれる方は意外に多いです。

死亡案件は基本的に訴訟する必要がありません。訴訟する対象がいないからです。そのため、親族が一切いない場合には保証会社で勝手に荷物を搬出処分することはよくあります。

ただし、本当に親族がいないか確かめないと後々面倒になることが多いのも事実です。

また、相続する方がいる場合、相続人も家賃滞納したとかなると将来的には訴訟するケースはありえます。

外国人対応



外国人の場合、家賃滞納を続けた後に国に帰ってしまうケースがあります。かなり多いです。

経験上、家賃を数ヶ月支払わずに、出入りも数ヶ月ない外国人の場合、戻ってくることはまずありません。お国柄というのもあるのですが、海外では家賃を払わなければ強制的に出される、というのは普通です。日本では非常に消費者保護が進んでいますので家賃を払っていなくても居住権が認められますが、海外ではそんなことはありません。

外国人の場合、この感覚があるので家賃を払わないなら荷物を出されて終わる、くらいの感覚の人もいます。日本人の感覚ではわかりませんが、外国人には結構普通のことです。

日本人だからとか、外国人だからとか言いたくありませんが、外国人の場合、出入りがないなら99%以上の確率で荷物を勝手に処分しても問題ありません。

明らかな夜逃げ



経験的にわかる明らかな夜逃げの場合にも訴訟をしないことがあります。

判断が微妙なのですが、この案件を訴訟するくらいなら荷物を出してしまえ、という場合です。

荷物搬出をして処分するということもありますが、荷物搬出後に保管するというケースもあります。

確率は低いですが、戻ってくることがあるからです。戻ってきたときに、家賃を払っていないので解約にした。ただ、戻ってくる可能性があるので荷物は取ってあります。だから返します。と言うと入居者側に家賃滞納という負い目があるので訴えられる可能性は大きく減ります。

ここで荷物を捨ててしまって入居者が戻ってくると結構厄介です。家賃を払っていないのは確かに悪いが、荷物の中には○○があった、それだけでも返してくれ!みたいな訴えをしてくることがあります。これが貴重品だったりすると裁判に発展することがあります。

そして、プロ延滞者(っていうのか?)は意図的に夜逃げ風に部屋を出て、荷物が搬出処分されたことを見計らって戻ってきて、実際にはなかったのですが、荷物の中には○○があった、などと主張して訴えてくることがあります。これはかなり厄介です。証明のしようがない上に、法的なことを考えれば訴訟をしていない分、保証会社が不利ですから。

弱気な入居者



入居者の性格を考えて訴訟しないケースです。これが良いとはまったく思いませんが、保証会社が実際に行うやり方です。

弱気な入居者の場合、多少・・・というかかなり強気なやり方をしても反論や訴訟をしてきません。

悪い言い方をすれば、相手の弱みを利用しているわけです。

訴訟してこないならやってしまおうということです。

免責事項



これも良いやり方とは思いませんが、実際にある方法です。

保証契約書の免責事項を探す方法です。

契約上、家主がやらないといけないことをやっていなかったと主張して、保証契約そのものを無効にするケースです。

家主からするとある日突然保証契約を打ち切られるので最悪です。しかし、実際に保証会社が行っている方法です。

当たり前ですが、保証契約書はある程度は解釈に幅があります。家主が守らないといけないこと、とはいってもほとんどの場合には守っていなくても問題ありません。それは家主がお客様ですし、契約書というのはそういうものだからです。

しかし、その家主の案件が少ない場合や訴訟したときの保証会社負担があまりにも高額になる恐れがある場合には、信頼を失ってでも保証を打ち切るという強硬手段に出る保証会社も存在します。残念な話ですが。

訴訟するのがよいとは言っても、社会がそれで回るとは限らない


念のため、もう1度書きますが、一般的に書面がない場合、保証会社がどういう行動を取るかを私の知識や当ブログへの情報提供などとあわせて書いています。特定の保証会社の情報ではありません。

ご意見は info@hoshokaisha.jp またはコメントまで。

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