家賃保証に関していえば競合ですが、正直なところ医療費保証、介護費保証、養育費保証の3つは専門がすぎて市場規模も戦略もまったくわからないというのが実情です。
なお、トータルではしっかり利益を上げているイントラストですが、家賃保証でいえば東証一部に上場している割には規模が小さいな、という印象です。というよりも従業員が96名(2019年)ということを考えれば、まずまず規模はあるという感じだと思います。
そんなイントラストが12月11日に第15期中間報告書で興味深いことを公開しています。
「株主の皆様から寄せられた声にお答えいたします。」のコーナーでは3つの質問があがっています。
- 立て替えた医療費は回収できるのか?
- 介護費用保証について
- 養育費保証の市場ニーズと動向について
立て替えた医療費のその後はどうなるか?
イントラストとの医療費保証について、私がわかっていませんので以下は推測がたぶんに入ります。
イントラストの医療費保証とは、入院などで身元保証人(連帯保証人)にイントラストがなるという意味だと解釈しています。通常、病院に入院するときには保証人が必要です。それなりに高額になると本当に支払えるかがわからないからです。そこで書類に住所、氏名、電話番号を書くわけですが、病院の審査はザルです。病院は医療機関であり、審査機関ではないからです。病院は信用情報機関に照会もしませんし、審査ノウハウを持っているわけではありません。
病院の保証審査は書類さえ出せば通るのが普通です。保証人に電話確認すらしないこともあるそうです。たぶん、フォーシーズの審査率よりも高いです。
当然、病院には回収ノウハウもありません。数年前ですが、病院の事務局の人が医療費を払わない人に督促、というかもはや支払いのお願いをしているのテレビの特集を見ましたが、まったく回収できないやり方で交渉しています。
そういう意味ではイントラストの医療費保証には需要はあり、将来性はあると思います。
しかし、私は思うのです。病院の保証人にイントラストが介入すると、審査で落ちた人はどうなるのか、と。近年では医療費の踏み倒しが増えたとはいえ、母数を考えれば微々たるものです。それでも病院には相当な負担ですけど。確率論でいえば、ほとんど遅れないものに対して保証するという点では家賃保証に近しいものを感じます。
イントラストは事業として医療費保証を行っていますので審査をすると思います。つまり、今まで雑だった審査が審査として機能するわけです。その審査に通った人はまず医療費を遅れない人です。
それでもなお、遅れた人にはイントラストが回収に動きますが、遅れながらも回収は可能でしょう。そして、中間報告書によると次のようにあります。
万が一回収できなかった場合でも、大手損害保険会社に保険をかけているため、追加で資金が発生することはありません。
中間報告書は株主に対しての報告書ですから、内容はこれで問題ありません。会計上の安全性に問題がないなら株主も安心するからです。
しかし、保証会社が延滞時の担保に保険会社をかけているということは、医療費の保証を行った際に受け取っている保証料を保険会社に回してリスクヘッジしているわけです。中間マージンを抜いて下請けに回す図を想像してしまいます。
だったら最初から病院は大手損害保険会社に依頼した方が安いと思います。が、このあたりは大人の事情もあるのでしょう。
そして、イントラストの審査に通らなかった人はどうなるのか?病院はイントラストなしで保証人だけで受け入れるか、病院を受け入れないかのどちらかでしょう。しかし、病院の存在意義からすれば「保証人が要る段階の病人」を受け入れないのはどうかと思います。(このあたり、病院の事務局の経営的な心情は抜きにしています。)
ということは、イントラストが保証しているのは医療費が遅れない属性の人であり、病院がイントラストなしで受け入れた人は医療費が遅れる属性の人と言い換えられます。
これって、意味なくないですか?
結果的には医療費の高騰の原因になりそうです。ただし、上記の事実をさらに言い換えると『イントラストが保証している案件は遅れても非常に高い回収率を維持』できるとなります。
イントラストが回収率(この場合、経営安定性)を前面に打ち出しブランド価値を高めるつもりなら、相当に強かといえます。
介護医療費保証について
介護医療保証が何のことかわかりませんでしたが、中間報告書を読んで理解しました。中間報告書には次のようにあります。
介護費用保証とは、高齢者向け住宅に入居する際のさまざまなお悩みを解決できる商品です。
パッと見では、賃貸アパートや賃貸マンションで積極的に高齢者を受け入れる不動産会社やオーナー向けの家賃債務保証とも見えますが、中間報告書には「施設運営者」という言葉が出ることを考えると、老人ホームや老人介護施設に入る際の保証人のことをいっているのでしょう。
この場合、支払いが遅れて立て替えをした際に、どうやって回収するのかは分かりませんが、保証会社としての仕事をしているのでよいとしましょう。
私はこういう施設の法律関係は詳しくありませんが、もしかしら居住権を主張できずに、すぐに退室することができるのかもしれません。
養育費保証のニーズと動向について
中間報告書によると日本では年間22万件の離婚があり、6割は未成年の子供がいる離婚だそうです。情報源が厚生労働省ですので信頼できる数値です。
そして、養育費をちゃんと支払っているのは3割弱だそうです。私も散々経験していますが、シングルマザーの家賃延滞率はやはり高いですので事情はよくよくわかります。子供のその後を考えると心が痛みます。
では養育費はどのくらいかというとアディーレ法律事務所がまとめています。なお、アディーレが参考にした出展は司法統計年報3家事編平成22年というのでこれも信用できます。
なんと、子供が1人の場合は6万円以下が80%超。子供が2人でも8万円以下が80%超です。
月々に子供にかかる費用がこれだけで足りるのかは非常に疑問ですが、ここではイントラストの体質のことを議題にしていますので、ドライに考えていきましょう。
ビジネスとしてはぜんぜんありだと思います。需要があるので保証する。考え方は非常によいと思います。私が疑問に思ったのは市場規模です。
アディーレの資料を参考に月6万円として、イントラストのいう年間離婚件数22万件の6割に未成年の子供がいて、養育費を支払っているのは3割と仮定します。
養育費を支払っていないのは 22万件 × 6割 × 7割 なので約9万件。これに6万円をかけると大体の市場規模が出ると思います。ということは市場規模はたったの55億円!?
55億円のすべてをイントラストが独占できるのであればそこそこなのでしょうが、9万件のうち何割がイントラストを利用するかを考えると売上もかなり限定されるでしょう。
2018年10月の兵庫県明石市が保証会社を使って養育費を支援するという記事を参考にすると年間保証料は1万円のようです。
記事をよくよく読むと年間保証料は1ヶ月分(つまり6万円前後?)の可能性がありますし、そもそもこの記事ではイントラストという言葉が出てきません。さらに、1万円という数字は役所を通す際の特別価格かもしれません。しかし、私は2018年10月の時点で養育費保証をしている会社としてはイントラストだと推測しています。
では、9万件 × 1万円を考えると9億円ですから、すべての案件をイントラストが確保できれば年間9億円の売上にはなりそうです。(仮に年間保証料が1ヶ月分であれば、平均で6万円前後が想定されますので、50億円を超える売上が見込めます。)
離婚時の養育費案件すべてを囲って年間売上9億円ではスケールは難しそうです。単価が上がれば別ですが。

質問はなんでも答えますので info@hoshokaisha.jp までどうぞ。
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